六本木交差点から溜池方向に坂を下り、俳優座前を通り過ぎ、東京ベッド(現在フランスベッド東京六本木ショウルーム、ビルの看板はまだある)の隣にスタービルという名の小さな古いビルがある。スターが住んでいるわけではなく、ビルを上から見ると星型のようなデコボコした形になっているからだという。
このビルに昔、私が在籍したこともある組織工学研究所というミニシンクタンクが入っていた。日本のロケット工学の草創期にマスコミを集めてペンシルロケットを飛ばし、ロケット博士として名を売り、その後ベストセラー『逆転の発想』でさらに名を高めた、糸川英夫博士が主宰する研究所だ。
この糸川博士の博士号、実はロケットの研究とは関係ない。第二次世界大戦終了まで戦闘機の設計に従事し、晩年は貝谷バレエ団に所属して舞台に立ったり、チェロの演奏を始めたり、多彩な活動で知られる博士だが、博士論文の内容は音響学であった。
敗戦と同時に戦闘機という研究対象を失って東大に戻った彼は、戦争の時代の研究とは全くの方向転換で、あの名器ストラディバリウスの音の秘密を探り、ストラディバリウスに負けないバイオリンを作りたいと平和の時代の研究を開始し、その音響学研究の成果により工学博士の称号を得たのであった。
ロケット研究以前のこのような不遇に見える体験の中ですでに、「逆転の発想」は育まれていたのではないだろうか。
しかしこの工学博士、ポータブルラジオやテープレコーダーの音が出ないとすぐにポンポンと叩く。日常行動は私たちと変わらない。
(2009.12.24 h.k.)



