長男とその友人たちが集まる自宅の音楽室は、たまたま長男がドラムに凝り始めたため今は練習室になっているが、私の中学生時代からの憧れである高級オーディオシステムを設置し、壁のスクリーンに映し出された映画を鑑賞するAVルームにする予定で10年以上前から設計図を描いていたもので、いずれは実現させるつもりである。
それまでの期間は大画面テレビのホームシアターで我慢しようと、音楽室を増築した4年前に薄型の大画面テレビを買ってリビングに設置したのだが、ホームシアターの音響機器は買わなかった。
リビングルームには北西のコーナーに薪ストーブがデンと陣取り、そのためにソファーやテレビ、エレクトーンなどの置き場が決まってしまう。熱と、飛び散る灰の関係でストーブの近くには機器類は置けない。その結果、テレビを設置する場所は南西のコーナーしかない。しかしその場所ではテレビの両側にホームシアター用のスピーカーを置くスペースが無いのである。
小型のスピーカーなら台の上に置けるが、試聴すると小型のスピーカーの音質の悪さは明らかである。BOSEというアメリカの音響機器メーカーのものは、小型でもそこそこの音はするが、同じメーカーの大きな製品の音を聴いてしまうとその差は歴然で、置き場所のために音質を犠牲にしたくないと思い、買うのをためらった。
2年ほど前、ビッグサイトで開かれた、ある環境イベントの会場を歩いていたら、ギターの生演奏をしているのか美しい音が聴こえて来た。吸い寄せられるように音のする方へと歩いて行くがステージもなく、BOSEと書かれた小さなブースがあるだけであった。音はそこから聴こえてくる。
そこにはなんと、釣りなどに使うクーラーボックスほどの大きさの、ラジカセの親分みたいなシロモノが置いてあった。この生演奏のような音場は、このVIAとよばれる小さな「箱」から出ているのである。
驚きながら聴き入っていると担当者がニコニコと笑いながら近づいて来て、「どうです?信じられないでしょう」と自慢げに言う。私が「こんな製品、BOSEのカタログには載ってませんでしたよ」と言うと、更に自慢げに「これは日本のBOSE感性工学リサーチ(株)オリジナル商品で、一切、店頭販売していません」と胸を張る。売っていないものを展示してどないすんねんと思っていたら、このようなイベントで実際に聴いて頂き、納得して買って頂く販売システムですというので、その場で契約書にサインし購入した。
以来、テレビの下に置かれた、このラジカセの親分がホームシアターの代わりを勤めて来たのだが、内蔵されたCDとMDが、ストーブの灰で故障するのではないかとの心配は付きまとった。
6月の下旬、会社に一本の電話が掛かって来て、「お使い頂いておりますVIAの様子は、いかがでしょうか?」と言う。何でも別組織だった日本の会社が閉鎖され、今後はBOSE本社がアフターメンテナンスを引き継ぐという。
ご親切にと思っていると、話はそれで終わらない。BOSEの元チーフエンジニアがKOI(コイ)と言う会社を設立し、ボストンのバークリー音楽大学と共同で音へのこだわりを追求した全く新しい音響理論のシステムを作ったので、ぜひ聴いて欲しいと言う。了解すると、さっそく翌日やって来た。
キャスター付きの小さなカバンから取り出されたスピーカーを見て仰天した。牛乳パックの半分以下の大きさなのである。サブウーファーがあるとは言え、メインがこんな小さなスピーカーで良い音がする筈がない。
しかし、接続を終え、そのスピーカーから流れ出した音楽は、あのラジカセの親分の音を凌ぐものであった。私の所有する様々なジャンルの音楽を再生してみたが、ややスパイスが足らない気はするものの、十分満足できる音である。
「コイと言うものは、不思議なモノなんだ」という歌の歌詞を思い出しながら、即、購入した。自宅でその音に耳を傾けながら、木へのこだわりが驚きの新製品を生み出すことはあるのだろうかと、少し寂しくなった…
(2007年7月10日発行「林材新聞」、コラム「ぜったい辛口の酒」より転載)
(株式会社榎戸材木店代表取締役 榎戸 正人 さん)
特定非営利活動法人国産材URL:http://kokusanzai.jp/



